東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2114号 判決 1981年3月13日
控訴人
南房総コンサルテイション株式会社
右代表者
石井利昌
右訴訟代理人
川本赳夫
被控訴人
軽込武雄
外五名
右六名訴訟代理人
竹澤京平
主文
本件控訴及び控訴人の当審で拡張した請求を棄却する。
控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、主位的に、「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対し各自(連帯して、又は合同して)金四七一万五、〇〇〇円(原審における金四一六万六、五九九円の訴求を当審において拡張したものである。)及びこれに対する昭和四七年六月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決、予備的に、「原判決を取り消す。控訴人に対し、被控訴人軽込武雄は金四七一万六、〇〇〇円、その余の被控訴人は各自金七八万六、〇〇〇円及び右各金員につきそれぞれ昭和四七年六月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の関係は、次のように附加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決二枚目表末行目に「住民である被告らが共有する」とあるのを「区長であつた被控訴人軽込武雄から同人を除くその余の被控訴人ら及び訴外亡鈴木浩の六名の共有名義(但し、実態は、同谷向部落の部落民(家)の所有(総有的共有)に属するものであり、被控訴人らはいずれも右部落民を代表して売主としての当事者となつたものである。)の」と改め、同三枚目裏九行目に「認める。」とある次に「但し、本件土地が谷向部落の部落民(家)の総有的共有に属することを否認する。」を加える)。
第一 当事者の主張、認否関係
一 控訴人の主張
1 主位的請求の拡張
山林は、その登記簿に記載の地積よりも現実の地積の方が多い(いわゆる縄延び)ことは日本全国に共通の現象であり、本件土地の近隣地も同様であつて、登記簿上の地積の二倍から一〇倍以上の縄延びがあるものがあることから考え、本件土地では最小限度登記簿上の地積の一割の三分の一の縄延びがあるべきものであることを前提に数量売買がなされたものであるから、実質的に不足する地積は一五、三〇三平方メートル()であり、登記簿上の地積五二、五六一平方メートルに対する売買代金一、六二〇万円の割合からすると、控訴人が本件土地の売主である被控訴人らに対し、民法第五六五条の規定により代金の減額を請求すべきその不足額は四七一万六、五八八円であり、千円未満を切り捨てると、四七一万六、〇〇〇円となる。そして、被控訴人らは、本件土地の実面積が登記簿上の地積より右のように減少していることを知つて売買したものであり、右売買代金の受領は悪意の不当利得となり、民法第七〇四条により被控訴人らは、右売買代金の支払の翌日である昭和四七年六月二一日から右支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
2 主位的請求の請求原因について
被控訴人らは、本件土地の実面積が上記のとおり、登記簿上の地積より著しく減少していることを知つていたものであり、あるいは知らなかつたとしても国土調査によつてそれを知り得たはずであり、したがつて、故意又は過失により、控訴人に実面積が少ないことを秘して本件土地を売却し、控訴人に対し、上記地積不足分(一五、三〇三平方メートル)に相当する四七一万六、〇〇〇円の損害を与えたもので、これは被控訴人らの共同不法行為であり、被控訴人らは、民法第七〇九条、第七一九条により各自連帯して右金員を支払う義務がある。そして、被控訴人らの民法第五六五条に基づく担保責任と右不法行為責任とは競合する。
3 予備的請求の請求原因
本件土地は上記のとおり三芳村谷向部落の部落民(家)の所有に属し、被控訴人軽込武雄は谷向区長として右所有者を代表して本件契約上その売主となつたものであり、売主として上記地積不足分に相当する四七一万六、〇〇〇円の支払義務があり、また、被控訴人軽込武雄を除くその余の被控訴人らは、本件土地の共有名義人であるから、各自その共有持分各六分の一に相当する右代金減額分七八万六、〇〇〇円の支払義務がある。
二 被控訴人らの認否
1 控訴人の主位的請求の拡張について
控訴人が主位的請求の拡張について主張する点はこれを否認する。確かに山林ではいわゆる縄延びがあることが多いかもしれないが、縄延びがなく却つて登記簿上の地積より少ないこともままあることである。ところで、本件土地は登記簿上は被控訴人山口〓外五名の共有になつているが、昭和二九年三月に三芳村から本件土地の払下げを受けたのは三芳村谷向部落民のうち被控訴人らを含む四〇名であり、部落民全員の共有に属するものではない(本件売買代金も、共有者一人当り四〇万円として右四〇名の各共有者がそれぞれ受領したものである)。なお、本件土地売買契約書(甲第二号証)において売主名を被控訴人軽込武雄としたのは、売主名を多数記載すると面倒なので便宜上当時の谷向部落の区長であり、かつ、共有者の一人であつた同被控訴人が他の共有者の同意のもとに、形式的には代理方式によらないが、実質的には他の共有者の代理人として、そして、自己の持分との関係では本人として上記契約書に記名捺印したものであり、このことは、同契約書の作成に立会つた控訴人側も承知していたところである。
2 控訴人の右2及び3の主張について
いずれも否認する。本件土地について国土調査の結果に基づく地積の訂正がなされたのは昭和五二年であるから、被控訴人らは本件売買当時本件土地の地積が登記簿上のそれよりも減少していることを知らなかつたものである。
第二 証拠関係<省略>
理由
一本件土地につき、昭和四七年二月二五日売主を谷向区長軽込武雄、買主を控訴人とする売買契約が成立し、控訴人が、同年六月二〇日代金一、六二〇万円全額の支払を了し、同月二二日所有権移転登記を受けたことは当事者間に争いがない。
二ところで、控訴人は、主位的請求として、まず右売買が数量売買であることを前提に、その地積の不足につき、被控訴人軽込武雄(売買契約上の売主名義人)及びその余の被控訴人ら(本件不動産の登記簿上の所有名義人)に対し、連帯(又は合同)して、売主としての民法第五六五条の担保責任を追求するところ、本件土地の所有者(売主)について争いがあるので、まずこの点から判断するに、<証拠>を総合すると、控訴人が買い受けた当時の本件土地の登記簿上の所有権者は被控訴人軽込武雄を除くその余の被控訴人ら及び訴外亡鈴木浩の六名の共有であつたが、右六名の共有登記がなされた経緯は、本件土地は元安房郡三芳村の所有であつたが、昭和二九年三月、本件土地を植林等に利用していた三芳村谷向部落の部落民四〇名(乙第一号証に記載された四〇名)が若干の対価をそれぞれ出捐して同村から払下げを受け(但し、登記原因は、贈与とされた。)、ただ所有権の登記名義人については四〇名全員の共有名義にすることは煩雑であることから、本件土地の造林委員をしていた上記六名の共有名義にしたものであり、したがつて、本件土地は控訴人に売却する当時上記四〇名の共有に属するものであつたと認められ、控訴人が主張するように右四〇名に限らず谷向部落の部落家(権利を有する部落民の属する家)全員の共有(総有的共有)に属するものであると認めるに足りる証拠は存しない。
そして、前掲各証拠によると、被控訴人軽込武雄は本件売買当時谷向部落の区長をしていたことから、本件土地の前記共有者四〇名を代表して、右区長としての被控訴人軽込武雄名義で本件売買契約を締結し、本件土地を控訴人に売却したものであることが認められる。したがつて、右売買契約の効果は、すべて右四〇名の本件土地の共有者に帰属するものであり、右売主側の代表者たる被控訴人軽込武雄個人に対し、右売買契約上の全額の担保責任を追求することは失当であり、また、右被控訴人軽込武雄を除くその余の被控訴人らに対する売主としての各自全額の担保責任の追求についても同様であり、右五名の者はいずれも単に登記簿上の名義人としての共有者であるにすぎず、各自六分の一の共有持分を有するものではない(なお、右共有持分に応じた担保責任については、後に判断する。)ことは、前記認定のとおりであるから、右五名の被控訴人らに対し、各自全額の担保責任を追求することもできないものと解される。
三次に、控訴人は、本件土地の売却が控訴人に対する共同不法行為を構成すると主張するのであるが、上記認定のとおり、本件土地は被控訴人ら四〇名の共有に属し、これを被控訴人軽込武雄が代表して控訴人に売却したものであり、右売却の当時被控訴人らが本件土地が登記簿上の地積より著しく減少していることを知つていたと認めるに足りる証拠はなく、また、本件土地が登記簿上の地積(五二、五六一平方メートル)より一三、五五一平方メートルも減少していることを最終的に知つたのは、<証拠>によると、昭和五二年一〇月であると認められるから、本件土地の地積が著しく減少していることを知らなかつたことについて過失があるとはいえず、結局、控訴人の右主張も失当である。
したがつて、控訴人の主位的請求(当審において拡張した請求を含めて)は、その余の判断をするまでもなく、失当である。
四次に予備的請求について判断するに、同請求は、被訴人軽込武雄に対しては売主としての全額の担保責任を主張するものであり、この点は上述した主位的請求と同趣旨のものと解されるので、右被控訴人軽込武雄に対する請求は、上記判断のとおり失当である。
次に、控訴人は、被控訴人軽込武雄を除くその余の被控訴人らに対し、本件売買における数量不足の担保責任として各自その共有持分六分の一に相当する金員の支払を請求するものであるが、上記認定のとおり、本件土地は被控訴人らを含め四〇名の共有であるから、右請求の範囲内で各四〇分の一の共有持分に対する担保責任が認められるか否かについて検討するに、<証拠>によると、本件売買においては、甲第二号証の土地売買契約書第四条但書に「その面積に増減ありたるときは、末尾の物件表示の記載によるものとする」旨の条項があるが、右売買契約書は市販の用紙をそのまま用いたものであり、特に当事者間で意識的に、本件土地の地積について、登記簿に記載の地積が最小限度あることを保証したものではなく、同契約書末尾に記載の売買物件の表示における地積は、目的物件の不動産を特定する意味しかなかつたものであり、また、売買代金一、六二〇万円と定められた事情も、反当りの単価を基準に登記簿上の地積に応じて算出されたものではなく、本件土地の現況に基づき共有者一人当り四〇万円と定めそれに雑費二〇万円を加算して、一六二〇万円と定められたものと認められ<る。>
右に認定した事実によれば、本件売買は、本件土地の地積が少なくとも登記簿上の五二、五六一平方メートルあるとする数量指示売買であつたと認めることはできず、したがつて、国土調査の結果、本件土地の地積につき右登記簿上の地積より一三、五五一平方メートルの不足(この不足が存することは、当事者間に争いがない。)が生じたとしても、控訴人は、上記被控訴人らに対し、その持分(四〇分の一)に応じ、右不足分に相当する売買代金の減額を請求する権利を有しないことは明らかである。よつて、控訴人の予備的請求も失当である。
五以上の次第であり、控訴人の本件控訴及び当審で拡張した請求は理由がないからこれを棄却し、また、控訴人の当審における予備的請求も理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(小林信次 鈴木弘 浦野雄幸)